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いつも跨っていた この白い単車
大雨が降ったあの日から 走れなくなっちまった
いつも突っ込んでた カギが合わない
スペアキーを入れても カギが合わない

一体どうしたんだと問いかけてみる
白い単車は黙ったまま 駆け巡った過去を問いかける
手荒く走ったけど粗末にはしていない白い単車
俺の意思に沿って駆けてくれたこの単車
だけど今は駆けるどころか
カギさえ拒絶されていた

走るのを諦め 徹底的に整備した
整備すれば駆けてくれると そう信じ続けていた
そんなある日 鍵穴が合った
イグニッションONで 光るNランプ

感動と労わりで胸が詰まった俺を突き放したこと
キックレバーを踏み倒しても 白い単車はうんとも言わない
真冬の夜に汗だくになり踏み倒しても エンジンは黙ったまんま
整備しても何もおかしくなかった だけど火は入らなかった
まるで俺を拒絶するかのように
走るのを拒絶した白い単車

いつも跨っていた 俺の白い単車
留守から戻ったときに ガレージから消えていたんだ
ガレージに残されたのは 壊されたキーシリンダー
もうひとつ残されたのは 壊されたディスクロック

一体どうなってるんだと混乱する俺
主のいないガレージを ただ一人たちつくしている
ガレージにはまだ新しいオイルの跡とタイヤの跡が
エンジンは黙ったままなのに 誰がエンジンをかけたのか
俺の分身のような白い単車
俺を拒絶して誰を受け入れたのか

いつもある場所に もう俺の単車はない
捨てられた気持ちで 胸が張り裂けそうだ
いつもある場所に あるべきものがない
主をなくしたメインキーは 悲しげな音を響かせてた

時が過ぎて俺は新しい単車を手に入れた
いなくなった白い単車と ぜんぜん違う色も形
まだ人見知りする黒い単車を徹底的に乗り倒した
やがて黒い単車は俺に馴染んで
数多の思い出を刻みこむんだ

黒い単車は馴染んでくれて 白い単車の記憶は薄れ
いつものように黒い単車に 跨り街を駆け抜けた
俺が跨る黒い単車は ますますいい感じになっていた
こんな頃にある場所で あの単車を見つけてしまった

懐かしさと変わり果てた姿に複雑な気持ち
めぼしいものは剥ぎ取られ錆びだらけのただの廃車だ
フレームにある傷がなければ白い単車と気付かなかった
変わり果てた俺の白い単車
もう甦ることはなくなってしまった

ポケットには残されたカギ この残骸を動かすためのカギ
キーシリンダーさえ 今はなくなってる
苦い想いをこらえつつ 俺はキーをシートに置いた
かって俺の単車だった 今はもうただの残骸に

悲しいといえば嘘になるけど 枷が取れた気持ちになる
再び黒い単車に跨り 遥か遠くに駆けていく
心なしか機嫌のいい 黒い単車の駆ける音
やっとひとつになれた気がする
遥か遠くに駆け抜けてくのさ これからずっと

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